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「京都吉兆」総料理長徳岡邦夫さんが 本当に作りたかったおせちとその食材とは?

W. SAKAI
2017/11/27
「京都吉兆」総料理長徳岡邦夫さんが 本当に作りたかったおせちとその食材とは?












今回は、婦人画報編集部 副編集長Hによる、究極のおせちレポートをご紹介します!

★★★











明石の鯛、間人(たいざ)の蟹、伊勢の伊勢海老……。
最上のものとして、昔から日本料理の世界で大事にされてきた産地の食材があります。
これをどのように使ったら究極のおせちができるか。京都吉兆の徳岡邦夫さんが全国の産地に求めて、旅に出ました。


これまで、婦人画報編集部では、徳岡さんと、産地を巡る旅を繰り返してきました。



プレミアム牛乳のホエイ(乳清)を使ったオリジナルのプリンを作りに北海道を訪ねたのは2011年8月号。


「じゃこ」の原形となった吉兆創業時の「本さざなみ」を復活させるため、静岡県を訪ねたのは2012年8月号。


2012年末には、日本料理に合うオリーブオイルを作るため、イタリア・ロンバルディア州にも行きました。



一次生産品に、京都吉兆の技を生かして世に出すことで、一次生産者にもっと光が当たるようにしたい、と考える徳岡さん。今回のおせちも、そうした意向の延長にあります。











三重県の沿岸地域には、古より伊勢神宮に海の幸を献上してきた歴史があります。
太平洋に面し入り組んだ海岸線が続く鳥羽・志摩をはじめ、良質な漁場が多くあり、伊勢海老やからすみ作りのぼらなど、多くの良質な魚介が獲れます。









徳岡さんが、三重県を訪れたのは10月の終わり、9月に解禁になったぼら漁が最盛期を迎えるころ。尾鷲にある「大瀬勇商店」の工房では、2日間ほど塩漬けにしたぼらの卵巣を塩抜きし、天日干しにする準備が行われていました。

「秋晴れが続き、冬の冷涼な風が吹くこの時季が、からすみ作りに最適です」と店主の大瀬勇人さん。
卵巣に血が回らないよう、一本釣りされたぼらは丁寧に血抜きの下準備がされ、2週間以上かけて干されて、美しいべっ甲色の天然のからすみになります。
からすみの産地はほかに長崎が有名ですが、徳岡さんが尾鷲のものを選んだ理由は、その粒の細かさとしっとりとした仕上がりです。















徳岡さんの求める食感や風味は、サイズも重要です。





たとえば、伊勢海老。多く流通する約200グラムの3倍ほどのもの、それも鳥羽や志摩で獲れるものが、「身質の豊かさに間違いがない」と断言します。
仲卸を通じ、送られてきた伊勢海老を比べて選んだのが、志摩半島の先端にある「和具漁協」のものでした。














「京都吉兆」では、同じ食材を、日本各地から嵐山本店に取り寄せて、比較研究しています。
「おせちに使う食材は、そのなかから厳選した土地のもの」と徳岡さん。
それは、伊勢海老、あわび、鯛、蟹などすべての食材に至り、絞り込む際には、嵐山本店だけでなく、北海道の京都兆洞爺湖店も加わります。
当地の大河原謙治料理長は赴任10 年。道内でも特に質のよい数の子や鈴子(イクラ)の産地を探し、京都に伝える役目も担っています。













こうして年に一度の晴れの日の料理にふさわしい、国産の9つの最上素材が選ばれました。




あわびの獲れる夏過ぎから、栗の採れる秋を経て、冬に向かって伊勢海老、にしん、ぼら。
収獲の時季を逃さぬよう、各地に散らばった食材の目利きたち、生産者や仲買人が最良のものを見極め、嵐山本店に少しずつ届けていくのが、おせち作りの始まりです。
師走に入ると、嵐山本店では、これらの料理の本格的な仕込みが始まります。




















お重に詰められる料理は、座敷でもてなす客に出す料理と同じ品質を求められます。
数の子や蟹を浸けるうま出汁は、京都兆独自の調味で、この上ないおいしさをそれぞれの食材から引き出す必要があります。このうま出汁も食材を見ながら調整しています。
「素材を信じ、技だけに頼らずに料理をする、日本料理本来の考え方を年に一度、総ざらいできるのがおせち作りだと思います」と徳岡さん。














変わらぬようで日々進化するおせちの最先端が、きっとこの一段重から感じられるはずです。










撮影=蛭子真

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